○「漂流宇宙戦艦ベテルギウス」最終回を迎えて。

どうして僕じゃダメなんだろう。
確かに僕はとりたてて特徴がある訳じゃない。高く飛べない、目がいいわけでも無い、宇宙酔いも酷くてパイロットとしては使い物にならないし、語尾に変な口癖があるわけでもない。


かといって、僕だって何も出来ないわけじゃない、電算なら誰にも負けない自信がある。
といっても、それはこの船の中で、と限定すればの話だけれど。
問題は、僕のいるこの世界は電算なんか対して問題じゃないということ、結果から申し上げると。かわいいあの子も綺麗なあの子も、僕の大好きなあの子も。みんなパイロットとくっついてしまった。
僕だって何もしなかったわけじゃない、僕なりの恋とドラマがあったんだ。
名前も覚えてもらえなかったけれど。


あいつらは髪の色が赤いとか青いとか奇抜な髪型とかそんな理由で個性的で、まるで黒髪センター分けの僕なんか形無しだ。僕なんて名前も知られて無いというのに、この船に三機しか無い戦闘機のパイロットなんかこの船のクルー全員に名前が知れわたっている。


それに何故か知らないが、服装も僕等一般クルーとは全然違うんだ。カラフルでやけに目立つ。どうしてだろう?
軍の階級でいえば僕のほうが上だし、仕事は僕のほうが多い、あいつらは敵がいなければ女の子といちゃついているだけじゃないか。
確かに、彼らがいなければ今頃この船は敵に沈められていただろう。けれどそれは僕がいなくたって同じことだ。僕だってこの船を動かしているんだし、僕がいなければ誰がこの広大な宇宙から母船に戻る帰還プログラムを組むんだろう?


あの赤い機体が管制の支持を無視して女連れで飛び出した時なんか、僕は徹夜で探索プログラムを組んだんだ。だが、帰ってみれば僕の大好きだったあの子と赤髪のパイロットはデキていやがった。
それだけならまだしも、食堂のアイドルだったあの子もいつの間にか赤髪と仲良くなっていたし。
電算室の浮沈艦、今まで誰にもなびかなかった綺麗なあの子も、僕が知らない間に赤髪の魔の手に落ちた。
他にも恋愛話といえば赤髪、赤髪、赤髪。そればっかりだ。


そりゃあ、あの赤髪は勇気とか熱血とかそういう資質があると思う。まあ、一流のパイロットだってのも認めてやる。けれど僕等にだって・・


だが全て終わったことだ。結局、僕は彼らの輪には入るとことは出来なかったし、この船も艱難辛苦の航行路を終え、後二日で地球に帰還することになる。
僕は、僕はこの船を降りるだろう。兵役も切れる。


だが、僕にも魂がある、この船を動かしてきた誇りがある。
決して表には出ないだろう、エンドクレジットも終わったところだ。僕は反逆する、この物語に反逆する。実はさっきプログラムを組み上げたんだ、彼らにはもう少し頑張ってもらおう、もうエンドクレジットも終わったんだ。物語はさっきレールから外れた。
誰の意図も、制約も受けない方向に動き出しているはずなんだ。


だから、僕は僕の世界に挑戦する、僕の才能と僕自身の存在をかけて。


僕等にも、僕等にも名前があるんだ。


劇場版「漂流宇宙戦艦ベテルギウス」をお楽しみに!!