■「インサイド・マン雑感」[批評]

映画「インサイド・マン」を観てきた、ついでに「TRIKC-劇場版2」も観てきたのだが、
トリック2の方はまあ感想らしきものも特に無いので置いておいてもいいだろう。
バレの部分もあるかもしれないので要注意。


問題の「インサイドマン」である、ところどころで絶賛されているようで興味をそそられ見に行ったのであるが。
恐らく私自身が9.11以降に米国内を吹き荒れた「猜疑」の嵐を体験したのであれば、この映画に対する私の意見はもっと違っていたかもしれない。
しかし私は平和ボケといわれる温室生まれ、温室育ちのなよなよした「もやし」であるので、映画内で随所に見られたグアンタナモ収容所等を風刺したかなり攻撃的な演出も「もやし」には悲しくスルーである。
いや、知識としてはわかる、ああ、そういうことだな、これはこういうことをいっているのだな。
とわかりはするのだが、その演出が緊張感や緊迫感として私に迫ってきたかというとそうではなかった。


物語の核となる部分(オチ)について、私が映画が始まってかなり早い段階に気付いてしまっていたからかも知れない。
いや、オチが読めたことを誇る気はないのだ、たまにそんな奴がいるが。映画はオチが読めないほうが楽しいに決まっているし、私はそうありたいと願う。
しかし、余りに誇張された演出が、作り手の意図と枠組みを観客にあらわにしてしまっている。


私がそれを一番如実に感じたのは処刑のシーンである、あの場面で人質が覆面である意味がわからないばかりかその効果、つまりはそれ自体はブラフだったわけだが。
現実に観ている観察者両者ともに演出過多すぎて現実感の薄さに「ブラフだ」と感じないわけがないのである。
よく出来たブラフではなく、ブラフらしいブラフとなってしまっている。


これは上記のシーンだけでなく、映画全体にブラフだと敢えて前提を置いた演出が多すぎる。これはまるで観客が怒りのあまり席を立ってしまうのを恐れて、出来るだけ悲劇を想像しないように配慮して配置されているかのようである。確かに我々は気をもまずに見ることが出来るが、逆に最悪の事態を想像することが無いまま物語が滑ってしまい緊迫感の欠如を招いているように思う。
ああなると、サスペンスとしてはちょっと厳しいのではないか?


おそらく製作者が風刺したかったイスラム過激派の拉致・殺害事件やモスクワ劇場占拠事件、グアンタナモ収容所問題の映像などとそのままそっくりに演出してしまうことで、「本物でない」という非現実な要素が映画に混じってしまい、物語全体に対するバランスを欠いてしまったのでは?と思うのだが。


とこれは、お前がイスラム世界の台頭に現実感をもてないだけだろ?といわれれば返す言葉が無いのではあるが。


しかし、アイポッドやら、ビンラディンやらPSPやら実にタイムリーな話題を実に旨く詰め込んでいて、そこら辺はとても面白かった。現実のマッキントッシュはあんなに綺麗に動画を再生できるのだろうか?すげえなあ。


私の一番のお気に入りは、アルメニア人を探すシーンである、あの場面はパンアメリカ的でとても好きだ。



追記:トリック2は良い意味でも悪い意味でもトリックスペシャル二時間ドラマ版と変わらない内容だったと思う、特別映画館で見る意味は無いかも?