出来るだけのモジュール、声を出して歌を歌え。



空白に子供が一人。


「幸運や不幸を嘆きなさんな、坊や、坊やが考えているほどに世の中は辛いところじゃないんだよ。どんなに裕福な人間でも、悲しみや怒りを経験しない人間などいないのだよ。」
善良そうな老婆が語り掛ける。


SODOMAと大きくプリントされたTシャツを着た若者が食って掛かった。
「何ってんだババア、あー?母親の胎内から生まれ出ることもなく死した水子、炎天下の路肩で餓死したガキ、数ヶ月に渡ってレイプされ手を切断され内臓を抉り出されて死した少女、この世界のどこに平等がある?この世のどこに幸福がある?いいか坊主、生きるということは、すなわち殺すということだ、お前もその年まで生きてきたんだからなぁ!これからも殺せ!さあ自覚を持って今殺せ!」


大学教授らしい眼鏡の老人が声を挙げる。
「坊や、騙されてはいけないよ、我々は一人ではない、孤独では無いのだよ、我々には国というシステムが存在するんだ。私達は国家を守っていかなければならない、何故ならばそれは坊やのような子供達を守るために必要なんだよ。」
老人は子供を連れて行こうとする。


水商売風の女性がそれを制す。
「何ってんのよ?私はクニなんかに助けられた覚えなんかないわよ、私は独りで生きてきたのよ、誰だって自分で何とかしなくちゃいけないことがあるわ、何故って?誰かに甘えたら終わりだからよ、誰かに支えられて生きるなんて真っ平だわ。だってそうじゃない、自分の身は自分で守る、自分の食いぶちは自分で稼ぐ、何かに甘えている連中の顔を見てみなさいよ、醜いったらないわ、何かあれば助けてくれ、守ってくれそればかりじゃない、まるで家畜じゃない。坊やも自分で生きるのよ自分自身のその足で。」


「愚かな女よ、これだから人間性の下劣な低下が起こるのだ、かつてこれほど人間性の低下が見られた時期が歴史上あったのだろうか?人間が自分勝手にお互いの利益のみを追求し、自己の悦楽のみを追及していることに根源がある。我々は人を信じるべきではない、人は人にあらざる摂理を信じるべきだ。それは品位であり、神性であり、法であり、言説である。人の言葉には欲がある、人の言葉には裏打ちされた真意がある、人の言葉を信じてはいけない。少年よ、既に人間を超えた言葉はもう既に二千年前から存在する。少年よ、理解し信じるのだ、全ての存在を規定するためにだ。」
鎖を首にかけた男が雄雄しく演説した。


「おいおい、坊さん、ご高説のところ申し訳無いが一言言わせて貰おうか、世の中ってのはただ流れているだけだよ、坊やだってあと100年もすればもう骨さな、朽ち、乾き、風となり、消える。これは決まっていることよ、誰も彼も逃れることなんて出来やしないさ、坊やも無駄なことなぞ考えずに石になるんだよ、世界は物さ、全ての幸福や苦痛や不幸は風の前には消え去るだけさな。石になりな坊や、石になりなや。」
乞食風の男がつぶやいた。


「いい加減にしてくれたまえ、君達は無学が過ぎる、人間は人間として向上し、生きる為にお互いを殺さぬ為に思考しているではないか、それが人間の歴史というものだ。我々は死の恐怖から医学を発展させ、農業を発展させ、未知の土地を開拓し、大地に強大な根を張ることに成功したのだ。坊や、君は幸運だ、遥かかつての古代、乳児の死亡率がはるかに高かった時代に生まれなくて幸運だ。それは人間が獲得したものだ、我々人間は、遂に空を飛び、遠く宇宙にまで進出するに至っている。坊やはこの世界をさらに開拓する意志を持つんだ。人間は望みさえすれば立ち止まったことが無いのだから。」


舞台には幕が下りようとしていた。
だが、いまだ発言は続いている、喧喧層々諤々爛々と議論は続く。
少年の目には世界がめまぐるしく活動し、色鮮やかに浮き上がって行く様が見えた。


舞台の端に、Windowsとかgoogleとかそんなことが書いてあったが、少年にはまるで意味がわからなかった。